3子どもの発達と睡眠

3子どもの発達と睡眠

藤田貴子

福岡大学病院 小児科

 睡眠は「脳を創る」、「脳を育てる」、「脳を守る」、「脳を修復する」という大切な役割を演じています。睡眠の大きな目的は、前頭葉における実行機能を正常に機能させることや記憶に関与する海馬の神経構築の調整であり、睡眠不足をはじめとする睡眠の問題は、記憶の固定の障害、実行機能障害や感情コントロール障害など、さまざまな脳機能および行動に影響を与えます。

 1.睡眠の発達:おとなとこどもの睡眠の違い 睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠に分けられます。大脳の鎮静化すなわち「大脳をうまく休息させる役割」をもつ静睡眠とよばれるノンレム睡眠と、「休息した大脳を活性化し覚醒させる役割」をもつ動睡眠とよばれるレム睡眠が交互に出現することにより、大脳を安定した状態に保ち活動が維持されます。おとなは睡眠も覚醒も1回ずつ、夜だけ寝て、昼は起きているという単相性で、睡眠前半にノンレム睡眠が集中します。レム睡眠は入眠後に約90分周期で出現し、睡眠後半に向けて持続時間も密度も増大します。一方、新生児期は目覚めまた眠るというリズムを短く頻繁にくり返す多相性の睡眠パターンをとります。新生児では静(ノンレム)睡眠と動(レム)睡眠がほぼ半々でありますが、4~5歳ごろには成人と同じ割合(レム睡眠20%、ノンレム睡眠80%)となります。ヒトの睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠とが交互に現れますが、それらを合わせたひとまとまりの周期の長さは新生児期では40~50分、3カ月過ぎでは50~60分、2歳で75分、5歳で84分、成人では90~100分と変化していきます。老人になると再び多相性の睡眠となる傾向があり,睡眠時間は年齢とともに短縮します。 

(1) 新生児の睡眠 生まれたばかりの新生児は眠っていることが多く、1日16~18時間もどうして眠るのかまだわかっていません。睡眠、とくにレム睡眠が脳の発達を促すのではとも言われています。成人と異なり新生児は「レム睡眠」から入り、覚醒→「レム睡眠」→ノンレム睡眠→「レム睡眠」→覚醒のサイクルであり、睡眠を制御するメカニズムが未熟であることが推察されます。また新生児期の光環境は、睡眠を制御する生物時計(脳の視交叉上核)の性能を決め、その後の睡眠の発達あるいは睡眠習慣に影響を及ぼします。恒明環境で保育された早産児が、明暗環境で保育された早産児より睡眠の発達が遅れ、体重増加も妨げる可能性が報告されています。赤ちゃんの時に眠る環境をどのように整えるかが大切です。 

(2) 乳児 2か月目になると、明らかに覚醒・睡眠のそれぞれの時間帯は昼と夜に集中するようになり、生後4カ月までにかけて急速に昼間の睡眠が減少し、太陽の光と夜間の暗闇により24時間のサーカディアンリズムに強制されます。

 (3) 幼児・学童 睡眠覚醒サイクルは成熟し、夜間約10時間は眠り、4歳では昼寝をしなくても睡眠リズムが保てるようになります。また眠るときに分離不安や暗闇、モンスターへの恐怖などがあるため、安心させる声かけが大切になります。 

2.どれだけ眠ればいいの? 米国のNational Sleep Foundationが2015年に発表した年齢群別の必要な睡眠時間によれば、6~13歳は9~11時間、14~17歳は8~10時間必要とされています。

 3.みんな寝不足 

 

平均就床時刻を調べた調査によると、小学生で22時台、中学生で23時半、高校生では0時半とかなり遅く、睡眠不足を感じているこどもは、小学生で約60%、中学生で67%、高校生で74%に及んでいます。同様の傾向は乳幼児にもみられ2歳児で22時以降に眠るこどもの割合が1980年に29%だったものが、2000年には58%まで増加し、2010年にはやや改善し35%になっています。乳幼児の場合は、共働き家庭の増加に伴い、帰宅時刻の遅い両親の生活リズムに子どもをあわせるため、就寝時刻が遅くなっているケースもあります。学童期は部活や塾、メディア依存などにより睡眠時間が足りないようです。

 4.寝不足がこどもに及ぼす影響 睡眠不足で最初に影響を受けるのは神経機能で、とくに記憶は睡眠と強い関係をもつとされています。睡眠に問題をもつこどもは、昼間に眠い、頭痛、肩こりといった身体症状とともに、イライラする、ものごとに熱心になれないなど集中力・記憶力の低下、感情抑制の困難などの症状が出現します。 

(1) 学習能力、記憶力の低下 睡眠は記憶の固定に重要な役割を果たします。ワーキングメモリなどの短期記憶を除けば、ほとんどの種類の記憶が睡眠によって増強されます。そのため、睡眠不足状態では記憶力が低下することがいわれており、健康な小児において海馬灰白質の体積と平日の睡眠時間が相関するとの報告があります。

 (2) 情動の変化 睡眠不足は扁桃体の活動にも影響を及ぼし、情動行動を変化させ、イライラ、不安、攻撃性などが強くなります。同時に内側前頭前皮質の機能を低下させ実行機能障害をひき起こします。小児において睡眠障害がADHD様の症状をひき起こすことが言われています。 

(3) 成長ホルモンの分泌低下 成長ホルモンは夜間に分泌される代表的なホルモンです。成長ホルモンの分泌量は、睡眠の長さ・深さにも比例することが示されており、夜眠らなければ、成長ホルモンの分泌量はあまり増えません。 

(4) 肥満 睡眠不足が肥満を引き起こします。メカニズムとして、睡眠不足による慢性ストレスが交感神経系の緊張を高め、その結果副腎からの糖質コルチコイドの分泌が持続的に亢進することやインスリン抵抗性を生じさせること、胃から分泌される食欲亢進作用のあるグレリン分泌を亢進させることなどが考えられています。  

5.よく眠るには 新生児期の光環境は、睡眠を制御する生物時計の性能を決め、その後の睡眠・発達に影響を及ぼします。健やかな睡眠を保つためには新生児期からの光の調整が大切です。 

 (1) 朝早く起きて日の光を浴び,朝食を食べる ヒトには朝起きて日の光を浴びて15時間後に眠くなるようなリズムがあります。つまり、朝起きた時刻で、夜に眠くなる時刻が決まってきます。朝起きたらまず日の光を浴びるようにしましょう。また朝食は、身体のリズムを整えるだけでなく、セロトニン(覚醒を調節するホルモン)やメラトニン(睡眠導入作用などあり)分泌にとって重要です。朝食で摂取した必須アミノ酸のトリプトファンは、昼間はセロトニンまで合成され人を活動的にします。夜になり暗くなると、松果体でセロトニンからメラトニンが合成され、睡眠が導かれます。  

(2) 夜の光調整 こどもは光感受性が成人に比べて強いので、夜の光の影響を強く受けます。とくに蛍光灯に多く含まれる青い波長がメラトニンの分泌を抑制する作用が強いので、夜間は暖色系の電球が睡眠には良いとされています。 

(3) 眠前のテレビやゲームをやめる テレビ、パソコン、ゲームは大脳を活性化し、入眠障害、中途覚醒の原因となるので、寝室には置かず、夜眠る時刻の少なくとも1時間前から控えることが大切です。 

6.こどもの病気と睡眠障害 

(1) 発達障害 発達障害では乳児期早期から睡眠の問題を呈することが多く、育てにくさにつながります。夜寝かせようとしてもなかなか寝ない「入眠障害」、寝る時間が不規則である「睡眠リズム障害」、夜中に中途覚醒して1~2時間一人で遊んでいる、もしくは、朝早く目が覚めてしまう「不眠」や、いわゆる「夜驚症」、「睡眠時遊行症」などの「パラソムニア」などがあります。睡眠障害の原因として、脳波生成機構や脳成熟の違い、サーカディアン関連遺伝子発現の違い、メラトニン分泌の異常、覚醒機構の異常、感覚の異常(過敏性)などが言われています。 

(2) 起立性調節障害,不登校 起立性調節障害は、交感神経と副交感神経のバランスの崩れから朝起きれない、朝の食欲不振、全身倦怠感、頭痛、立ちくらみなどの症状が発現すると考えられています。起立性調節障害により朝起きることができずその後の不登校につながることがあります。また慢性の寝不足から不登校になる児もいます。学校の授業、部活、塾、帰宅後に宿題を仕上げるといった生活リズムによって就寝時間が遅くなり、慢性的な睡眠不足となり朝起きられず不登校へとつながります。一方、学習についていけないこどもの場合も勉強することが嫌になり、ゲームやインターネットへの依存から寝不足となり、不登校につながります。こどもは登校できていないことから自尊心が低下していることが多いため、不登校を責めるのではなく何が原因になっているかを考えていく必要があります。 

(3) アレルギー性疾患 気管支喘息の発作、アトピー性皮膚炎の痒み、アレルギー性鼻炎の鼻閉などの症状は睡眠障害をきたします。気管支喘息の発作は一般的に夜間から早朝にかけて出現しやすく、呼吸困難や咳による入眠障害や早朝覚醒・中途覚醒などを認めます。アトピー性皮膚炎は、患者の60%に睡眠障害が生じているといわれています。入浴や就床により皮膚温が上昇すること、サイトカインや自律神経系などが影響し夜痒みが増強します。アレルギー性鼻炎では、鼻汁、痒み、鼻閉などの症状によって睡眠障害が起こります。 私たちが何気なくとっている睡眠・・・それはこころと体と脳を守り育てる大事な時間です。日本人の睡眠時間は世界でも最短であり、こどもの睡眠時間も十分確保できていないことが多いようです。こどもの睡眠を妨げるものが何であるか、周囲の大人がよく考える必要があります。