1 睡眠改革で人生が変わる。

1 睡眠改革で人生が変わる。

吉村 力

福岡大学医学部衛生・公衆衛生学教室 准教授 福岡大学病院 呼吸器内科 

  今年の医学祭のテーマが「睡眠」となりました。私達が生きて行く手段として必須のものとして、酸素、栄養、運動、睡眠ではないでしょうか。今まで栄養、運動の話は多くTV、雑誌に取り上げられていました。しかし、睡眠はたまに取り上げられていましたが、あまり今年程取り上げられていなかったのではないでしょうか。

その要因として、昨年のユーキャン新語・流行語大賞に「睡眠負債」がノミネートされ、トップテンに選出されました。2017年6月18日のNHK放送、スタンフォード式最高の睡眠の本から、この睡眠負債という言葉が流行になっているのではないかと思います。このように、睡眠、睡眠負債について国民がもっと知りたいという気運があるのではないでしょうか。

  日本においては世界でも睡眠負債国トップでありますが、良く知られていないのが現状です。睡眠負債とは、睡眠不足が蓄積した状態で、自覚しにくく、結果的に高血圧、耐糖能障害、肥満、マイクロスリープ(微小覚醒)、認知機能低下などの原因となります。睡眠負債、特に睡眠時間との関係について、その詳細を本講演では解説させて頂きます。

    睡眠時間が4時間以下になると通常睡眠(7時間)に比較し、男女ともに1.6倍死亡リスクが高いことが判明している。睡眠時間が6時間未満になると通常睡眠(7~8時間)に比較し、1.7倍高血圧になりやすいです。また、睡眠時間が5時間以下になると通常睡眠(7~8時間)に比較し、2.5倍糖尿病になりやすく、9時間以上になると1.8倍糖尿病になりやすいことが解っている。特に男性においてインスリン抵抗性が強くなり、糖尿病のリスクになる可能性があります。肥満については、睡眠時間が短くなるとBMIが増加する傾向が認められている。


 今年、福岡県久山町研究の結果から、通常睡眠(5~6.9時間)に比較して、睡眠時間5時間未満であれば男性では2.6倍、女性では2.3倍、睡眠時間10時間以上であれば男性であれば2.2倍、女性では1.7倍認知症発症率と死亡率が上昇することが報告されている。このように、不適切な睡眠時間は各種疾患と関係しており、病気は夜に作られることが推察される。長寿国日本であるが、現在の状況が続けば認知症が増加するのではないかと推測されている。その要因として睡眠負債が関与している可能性は高い。睡眠負債が認知症などと関係して健康寿命を脅かしつつあるのではないでしょうか。 

また睡眠負債の代表格として、睡眠の質を阻害する閉塞性睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea Syndrome :OSAS)がある。OSASの症状として、いびき、睡眠中の呼吸停止は他覚的に観察される症状であるが、本人は自覚しないのが現状である。日中の眠気、不眠、夜間頻尿など自覚するが、その症状がOSASと結びつかないことが多い。

 OSASの重症度が高くなればなるほど死亡率が高くなることが解っており、1時間に20回以上無呼吸がある人では明らかに5年生存率が下がり、8年後の生存率は約63%に低下し、持続陽圧呼吸(Continuous Positive Airway Pressure : CPAP)治療にて生存率の回復が望めることが報告されている。高血圧に関しては、睡眠中の交感神経の亢進によってOSASが夜間高血圧に強く関与していることが解り、CPAP治療にて血圧が有意に低下することが報告されている。 また、OSASが重症になればなるほど糖代謝異常(糖尿病+耐糖能障害)が多くなる傾向が判明しています。OSASとインスリン抵抗性は体重とは独立して関連しており、2008年にアメリカ糖尿病協会において、糖尿病患者に対していびきや日中の眠気がみられ、OSASを疑えば睡眠ポリグラフ検査を施行し、積極的に治療すべきであると推奨しています。CPAP治療を4時間以上使用すると2型糖尿病罹病期間が10年程度の方でもHbA1cがCPAP使用日数に比例して低下することも解っています。2007年にはCPAP2日間中止しただけで有意に夜間の血糖値やコルチゾールの上昇が見られたことが判明しました。また、福岡大学病院では内分泌糖尿病内科、歯科口腔外科、呼吸器内科が一緒に2型糖尿病とOSASの診療・研究に取り組んでおり、国内外に論文を発表してきています。

 SASは認知機能低下と関係することもトピックスになっており、2015年Neurologyに老人において睡眠呼吸障害は約12歳程度認知機能低下が早くなることが証明され、CPAP治療にて約10歳程度認知機能低下が遅くなることが解ってきました。21万人のメタ解析が2017年8月に発表され、睡眠呼吸障害と診断された人の認知障害リスクは、睡眠呼吸障害のない人に比べて26%有意に高いことが証明されました。

 このような結果から、わが日本において、今年こそが睡眠軽視社会から睡眠重視社会の転換の時期であると思い、睡眠負債、睡眠時無呼吸症候群について詳細に講演をする予定である。