アルコールによる消化管疾患

アルコールによる消化管疾患

入江 真

福岡大学医学部消化器内科

はじめに

   厚生労働省の平成27年度「国民健康・栄養調査」によると、生活習慣病のリスクを高める量の飲酒*1をしているヒトの割合は、男性:13.9%, 女性:8.1%です。また、男性の2.8%と女性の1.2%は、大量飲酒者(大酒家*2)でした。

 アルコールは、食道を通り、胃で20%、小腸から残りの80%が吸収され体内に入ります。アルコールは、消化管に直接障害を起こすほかに、粘膜の血流や消化液などに影響を与え、間接的にも障害を起こします。また、消化管平滑筋内の蛋白質や神経を障害し、消化管の運動機能に影響を与えます。

 アルコールの90%以上が肝臓で代謝されます。アルコールはアルコール脱水素酵素(ADH)によりアセトアルデヒドに分解され、アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により酢酸に分解され、最終的には、水と二酸化炭素に分解されます。日本人の約40%のヒトにアセトアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)活性が欠損していると言われています。これは、アセトアルデヒドが、体内に蓄積しやすい体質だということを意味します。このアセトアルデヒドは飲酒後の、顔が赤くなる、胸がドキドキする、頭痛、吐き気、嘔吐などの不快な症状(フラッシング反応)を引き起こします。そして、ひどい場合は、悪酔いや二日酔いの原因となります。

 アルコールは口腔, 咽頭, 喉頭, 食道, 肝臓, 大腸および乳房のガンの原因になります。アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドや遺伝的素因が発ガンに関連があると言われています。 2016年の欧州コホート研究では、男性のガンの10%, 女性のガンの3%が飲酒に起因しているとの報告があります。

 今回、アルコールによる消化器疾患と題して、アルコールに関わる消化器疾患について、いくつか簡単にまとめてみました。



1. 胃食道逆流症(逆流性食道炎) (図 1)  

   アルコールは胃の内容物の食道への逆流を防ぐための下部食道括約筋(LES圧)を緩めたり食道の蠕動運動を低下させて胃酸の逆流を引き起こします。胃酸に暴露された食道は、ただれて食道炎となります。検査で発見されることもあれば、心窩部痛や胸やけとして感じることもあります。

2. マロリーワイス症候群
 (図 2)  

  嘔吐を繰り返すことで胃の急激な収縮により食道に圧が加わり、食道下部から胃の入り口(噴門部)の粘膜が裂けて血管が破れて出血(吐血)することをいいます。アルコールはLES圧を緩めますから、容易に食道に圧が加わるため、飲酒後におこることが多い疾患です。

3. 食道・胃静脈瘤 
(図 3)


アルコール性肝硬変により肝臓が固くなり、肝臓に流れている門脈(栄養血管)血流が肝臓に流れにくくなります。そのために門脈血流が食道や胃に流れ込み食道粘膜や胃粘膜の静脈がこぶのように膨れて、でこぼこになった状態です。進行すると破裂して大出血を来たすことがあります。


4. 食道ガン, 頭頚部ガン 
(図 4)  

   アルコール(2合以上)飲酒者は非飲酒者より発ガンリスクは4.6倍高くなります。タバコで起こる確率は、頭頚部ガンが非喫煙者の約3~14倍。食道ガンが約7倍と非常に高く、これにアルコールが加わるとさらに3~5倍になると言われているため、頭頚部ガンでは最大で約70倍, 食道ガンで約35倍近くに増加します。 ALDH2が欠損しているヒトの発ガンリスクは7.12倍あります。 早期食道ガンでは、自覚症状がなく健診の上部消化管内視鏡検査で見つかる事があります。


5. 急性胃粘膜病変(AGML)
(図 5)


    摂取するアルコールが大量で高濃度なると胃酸による自己消化を防ぐ胃の粘膜防御機構が壊れてしまい、直接的に胃粘膜障害(血流障害)が起こり、浅い潰瘍, 出血, びらんが多発します。突然の上腹部痛, 嘔吐, 吐血や血便などの症状が現れます。アルコール以外の原因としては、精神的あるいは肉体的ストレス、外傷、手術、薬剤などがあります。

6. 胃潰瘍, 十二指腸潰瘍
 (図 6)

 ヘリコバクタ・ピロリ菌(H. pylori)感染と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が2大病因であるといわれていますが、飲酒, 喫煙, ストレスも危険因子として知られています。アルコールは胃酸の分泌を促し胃の粘液中のたんぱく質を固めて胃の粘膜を傷つけてしまうという作用があります。そのために、高濃度のアルコールや大量のアルコールを摂取すると胃の粘膜は破壊され、胃酸によって潰瘍が作られます。胃潰瘍では、食後の上腹部痛、十二指腸潰瘍では、空腹時の上腹部痛を認めます。

7. 門脈圧亢進症性胃腸症(PHG) 
(図 7)

 アルコール性肝硬変になり、門脈圧が亢進すると胃の上部(噴門部) を中心に粘膜のうっ血, 浮腫, 血管拡張を認めます。進行すると胃粘膜から出血を起こし吐血や貧血の原因となります。

8. 胃ガン 
(図 8)

 アルコール性肝障害患者では、胃ガンは食道ガンと並ぶ最も多いガンです。胃ガンは、H. pylori(HP)感染を背景に慢性萎縮性胃炎から発生すると言われています。HP感染による発ガンリスクは、約10倍です。また、飲酒, 喫煙, 食生活や遺伝的因子がHP感染者の慢性萎縮性胃炎の進行を早める可能性があります。早期胃ガンでは、自覚症状がなく健診の上部消化管内視鏡検査で見つかる事があります。

9. 大腸ガン 
(図 9)

 日本人男性は、飲酒による大腸がんリスクが高くなります。 2合以上で2倍, 4合以上で3倍の発ガンリスクがあります。1日のアルコール摂取量が15g増えるごとに、大腸ガンリスクが約10%増えると推定されます。日本人は飲酒で大腸がんが発生しやすい背景を有するかもしれません。アルコール飲料の種類や大腸の部位(結腸, 直腸)による差はありません。早期大腸ガンでは、自覚症状がなく健診の便潜血反応で見つかる事があります。


おわりに

    アルコールに関連する疾患は、消化器疾患に限らずまだまだ多くの関連疾患があります。現在、アルコールについての科学的な知見は蓄積されてきています。今後、この知識をどのように教育や健診などの予防手段につなげていくかが重要と考えます。


(注釈)

*1:生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者とは、1日当たりの純アルコール摂取量が男性で40g以上, 女性で20g以上の者。

         例:日本酒1合は、純アルコール摂取量(エタノール換算)で20gに相当します。

*2:大酒家とは、エタノール換算で100g以上の飲酒者。