薬物依存症とアルコール依存症

薬物依存症とアルコール依存症

武藤 由也、吉良 健太郎、川嵜 弘詔

福岡大学医学部精神医学教室


① はじめに

 近年ニュースやインターネットなどで、さまざまな物質(大麻、覚醒剤、アルコール、・・・)に対する依存症が注目を浴びている。さらには、ギャンブル依存症やネット依存症など物質を介さない依存症も最近では注目を浴びている。

 福岡大学病院精神神経科では、依存症に伴う問題行動や自殺未遂者への対応を他科と連携して行うことがしばしばあり、こういった患者へ対応することは大学病院の役割であるとも言える。本項では薬物・アルコール依存症の概要と治療について、また最後にそれらと自殺関連行動との関係について要点を述べたい。


② 薬物依存症

 依存症の定義:「精神に作用する化学物質の摂取や、快感・高揚感を伴う行為を繰り返し行った結果、さらに刺激を求める抑え難い渇望が起こる。その刺激を追求する行為が第一優先となり、刺激がないと精神的・身体的に不快な症状を引き起こす状態」と定義されている(WHO)。 薬物依存症の概念を理解するためには、薬物乱用、薬物依存、薬物中毒という3つの鍵概念とその関係を理解することが重要である(図1、図2)。


 

 




③ 依存症治療の構成

  薬物依存症治療の構成要素は、(1)治療関係づくり、(2)治療の動機づけ、(3)精神症状に対する薬物療法、(4)解毒、(5)疾病教育・情報提供、(6)行動修正プログラム、(7)自助グループ・リハビリ施設へのつなぎ、(8)生活上の問題の整理と解決の援助、(9)家族支援・家族教育、からなる。(1)~(9)について順に説明していく。

(1)治療関係づくり:治療の成否は治療関係に大きく左右される。治療関係が良好であることは、有効な治療の実践には不可欠である。依存症のもとには対人関係障害がある。治療者には、依存症患者の特徴をふまえた適切な対応が求められる。依存症治療の最も重要なポイントは、信頼に裏付けられた良好な治療関係の構築にあるといっても過言ではない。

(2)治療の動機づけ:わが国ではこれまで動機づけについて、家族などの援助を極力排除して「底をつかせる」ことが正しい方策であるとされてきた。しかし、「底をつかせる」ことにエビデンスはなく、悲惨な結果を招くことも少なくなかった。現在は、動機づけは治療者の重要な役割であるとされ、動機づけ面接法や随伴性マネジメントといった手法を積極的に取り入れることが推奨される。動機づけに際しては、①患者に対して陰性感情をもたず敬意をもって向き合う、②患者の健康な面を積極的に指摘して評価する、③「患者がどうなりたいか」に焦点を当てた治療目標を設定する、④前向きな発言が具体的行動に繋がるように促す、⑤過大な期待をせず長い目で回復を見守る、⑥動機づけ面接法や随伴性マネジメントを積極的に取り入れる、などに留意する。

(3)精神症状に対する薬物療法:ヘロイン依存に対するメサドン療法などを除いて、薬物依存症に特別な薬物療法はない。また、一般的に薬物依存症患者は安易に強力な処方薬に頼る傾向が強いことから、希望のままに処方に応じることは慎む。特にバルビツール酸類やベンゾジアゼピン系の処方薬は依存を引き起こしやすく、注意を要する。

(4)解毒:薬物の連続使用が起こったり、中毒性精神病の症状が活発化したりすれば入院治療を行う。解毒入院に関しては専門病棟でなくても可能である。ただし、依存症に特有な「薬物渇望期」の特徴を知っておくことは大切である。たとえば、覚醒剤の場合、退薬症状として意欲減退・嗜眠傾向などがみられるが、これを薬物療法による過鎮静と誤解されやすい。この時期と、その後に続く「薬物渇望期」の特徴をふまえて、精神病症状が落ち着いても処方薬の減量、行動制限の解除、非自発的入院者の退院などを急ぎすぎないように注意する。

(5)疾病教育・情報提供:ほかの精神疾患、たとえば統合失調症患者などに対して行われる疾病教育・情報提供と同様で、ミニ講義を集団や個別で行ったり、簡便なワークブックを利用した認知行動療法的な手法を取り入れたりできればよい。

(6)行動修正プログラム:何らかの行動修正プログラムをもっていると治療的関与は楽になる。依存症に関する講義やミーティング、簡便なワークブックの利用、自助グループなどからのメッセージなど、何か1つでも提供できれば十分に治療的である。プログラムがなくても、治療者が、患者に対して陰性感情をもたずに関わるだけでもよい方向に変わる契機となる。簡単なホームワークを提案してもよい。よい行動には十分評価する事が有効である。さらに、依存症治療の有効性に豊富なエビデンスのある、認知行動療法的アプローチを導入することはさまざまな点において望ましい。具体的には再使用を防ぐ知識と技術を身に着けることが重要である。通常の外来診察においても短時間で関われるように、簡便なワークブックを利用できるとよい。現在、わが国において、SMARPP(Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program)を基本としたワークブックが依存症治療の新たな手法として導入されている。

(7)自助グループ・リハビリ施設へのつなぎ:専門病棟に入院したからといって、簡単に自助グループやリハビリ施設につながるわけではない。薬物依存症では、NA(Narcotics Anonymous)などの自助グループやダルクなどのリハビリ施設、アルコール依存症の場合は、断酒会、AA(Alcoholics Anonymous)などの自助グループやマックなどのリハビリ施設に関する情報提供とともに、メンバーやスタッフとの接点を設定する。

(8)生活上の問題の整理と解決の援助:依存症患者は、問題を先送りにするため、さまざまな生活上の問題を抱えている。問題解決能力に乏しく、適切な援助資源をもたないことも多い。これらの問題が回復の妨げになる。患者とともに問題の整理と解決を進める。利用できる社会資源の活用、問題の優先順位に沿った対処計画の作成などを、患者の自主性を妨げずに行動できるよう支援する。問題の整理が進むと回復の意欲が高まる。患者のできることは患者にやってもらい、できないことは援助することが基本になる。援助者が、やり過ぎない意識が大切である。

(9)家族支援・家族教育:家族は患者対応により疲弊しているため、適切な支援を行うことは重要である。家族が家族会や家族グループにつながり続けるとストレスは軽減し、患者に対して適切な対応ができるようになる。


④ アルコール依存症(使用障害)

  アルコールの問題となる使用様式で、臨床的に意味のある障害や苦痛が生じ、以下のうち少なくとも2つが、12か月以内に起こることにより示される。

(1)アルコールを意図していたよりもしばしば大量に、または長期間にわたって使用する。

(2)アルコールの使用を減量または制限することに対する、持続的な欲求又は努力の不成功がある。

(3)アルコールを得るために必要な活動、その使用、またはその作用から回復するのに多くの時間が費やされる。

(4)渇望、つまりアルコール使用への強い欲求、または衝動

(5)アルコールの反復的な使用の結果、職場、学校、または過程における重要な役割の責任を果たすことができなくなる。

(6)アルコールの作用により、持続的、または反復的に社会的、対人的問題が起こり、悪化しているにもかかわらず、その使用を続ける。

(7)アルコールの使用のために、重要な社会的、職業的、または娯楽的活動を放棄、または縮小している。

(8)身体的に危険な状況においてもアルコールの使用を反復する。

(9)身体的または精神的問題が、持続的または反復的に起こり、悪化しているらしいと知っているにもかかわらず、アルコールの使用を続ける。

(10)耐性、以下のいずれかによって定義されるもの:

(a)中毒または期待する効果に達するために、著しく増大した量のアルコールが必要

(b)同じ量のアルコールの持続使用で効果が著しく減弱

(11)離脱、以下のいずれかによって明らかとなるもの:

(a)特徴的なアルコール離脱症候群がある

(b)離脱症状を軽減または回避するために、アルコール(またはベンゾジアゼピンのような密接に関連した物質)を摂取する。


⑤ アルコール依存症の治療

  わが国におけるアルコール使用障害の治療は、1963年に国立療養所久里浜病院(現国立病院機構久里浜医療センター)に専門病棟が設置され、ここでの治療の実践が標準モデルとして全国各地に普及していった。患者は、任意入院の形態で開放病棟に入院し、集団治療プログラムに参加する。プログラムは、心理教育、集団精神療法、作業療法、運動療法などからなり、患者はすべてのプログラムに参加する。入院は、解毒を行うⅠ期治療と集団精神療法を中心としたⅡ期治療からなり、期間は一律に3か月程度と決められている。病棟内に自治会が組織され、入院生活を自主的に運営する。外泊もプログラムの一環とされ、退院後は外来通院、抗酒薬服用、自助グループ参加を継続する。以上の特徴を備えた入院治療は、「久里浜方式」あるいはARP(alcoholism rehabilitation program)と呼ばれ、この方式が、わが国のアルコール使用障害治療の基本形として実施されてきた。加えて、一部の医療機関では、SST、内観療法、森田療法など独自の取り組みも行われてきた。アルコール使用障害治療として実施されている主な心理社会的治療・薬物療法を以下に示す。

・心理社会的治療

1. 集団精神療法(ARP)

2. 自助グループ(断酒会、AA、NA)

3. 認知行動療法(動機づけ面接法、認知行動的スキルトレーニング、随伴性マネジメントなど)

4. その他、作業療法、家族療法、運動療法、内観療法、森田療法、SSTなど

・薬物療法

1. アルコール離脱予防薬(ジアゼパムなど)

2. 抗渇望薬(アカンプロサート)

3. 抗酒薬(ジスルフィラム、シアナミド)

4. 随伴する精神症状に対する治療


⑥ 薬物・アルコール依存症と自殺

  海外における心理学的剖検の手法を用いた自殺既遂者の調査からは、自殺者の少なくとも2~3割はその行為の直前に薬物・アルコール依存症に罹患していることが明らかにされている。たとえば、その先進的な国家的対策によって自殺死亡率減少に成功したフィンランドにおける大規模な心理学的剖検調査でも、自殺既遂者の93%に何らかの精神障害への罹患が認められ、うつ病(66%)とともにアルコール依存症(42%)への罹患が高率であったことが明らかにされている。また、HarrisとBarracloughが明らかにした、乱用物質の種類ごとの依存症罹患者の標準化自殺死亡率は、鎮静剤・睡眠薬・抗不安薬20倍、複数物質19倍、オピオイド14倍、アルコール6倍と、その多くがうつ病よりも高いオッズ比である。 国内での自殺関連障害と依存症との間の関係について興味深い国内報告を紹介する。過去12か月の自殺念慮は、うつ病の診断に該当する者で19.4%であったのに対し、薬物・アルコール依存症では16.7%、また自殺企図の経験は、うつ病8.3%に対し、薬物・アルコール依存症では16.7%であった。この報告で興味深いのは、「自殺の計画を立てた」経験に関しては、うつ病該当者と薬物・アルコール依存症該当者に差はないにもかかわらず、自殺企図の経験は、薬物・アルコール依存症該当者ではうつ病該当者よりもはるかに高く、しかも、自殺計画の経験者よりも自殺企図の経験者のほうが多いという点である。このことは、薬物・アルコール依存症該当者の少なくないものが、具体的な計画を立てる間もなく自殺企図に至った可能性を示唆する。 余談であるが、わが国では日本人における1日当たりのアルコール消費量と自殺死亡率との興味深い報告もある。それによれば、アルコールを「飲まない」者は、「時々飲む」という者よりも自殺のリスクが高いが、日本酒換算にして1日「2.5合以上飲む」という者では自殺のリスクが高いという。すなわち、わが国では、アルコール消費量と自殺死亡との関係は、虚血性心疾患などと同様、「U字型」の相関関係をもっているということになる。この知見は、アルコール依存症の診断に該当するか否かに関係なく、多量飲酒が自殺の危険因子となりうることを示している。


(参照)

厚生労働省HP:薬物依存症

成瀬暢也:薬物患者をアルコール病棟で治療するために必要なこと 精神障害の診断と統計マニュアル-5

成瀬暢也:アルコール関連問題とその対策:進歩と展望

松本俊彦:アルコール・薬物依存症と衝動的行動